はじめに
近年ドローンは測量、点検、農業など、さまざまな分野で社会実装がすすんでいます。
事業でドローンを運用する際には、航空法をはじめとする関係法令を正しく理解し、遵守することが不可欠です。
本ガイドではドローンのビジネスへの導入を検討されている方に向けて、航空法で定められた罰則規定を体系的に整理し、コンプライアンス上のリスクを具体的に解説いたします。
航空法における罰則の全体像
航空法では、違反の内容に応じて以下のような罰則が定められています。
- 拘禁刑または罰金刑
- 2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
- 1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
- 罰金刑
- 50万円以下の罰金
- 30万円以下の罰金
- 10万円以下の罰金
- 過料
最後の過料を除いて、いずれも刑事罰となります。
ドローンの運用において違反が発覚した場合、企業としての信頼失墜だけでなく、取引先との契約解除や入札資格の喪失など、事業継続に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、従業員個人にも刑事責任が及ぶため、組織全体でコンプライアンス意識の共有を徹底することが不可欠です。
ひとつずつ見ていきましょう。
拘禁刑もしくは罰金刑
(1)2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
事故発生時の危険防止措置義務違反
ドローンによる事故が発生した際、直ちに飛行を中止し、負傷者の救護や二次災害の防止など必要な措置を講じなかった場合に適用されます。
- 法的根拠:航空法第157条の6
- 実務上の注意点:事故報告を怠った場合や虚偽の報告をした場合も別途30万円以下の罰金が科されます。
(2)1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
無登録機体の飛行
国土交通省令で定める重量(現行規定では100g以上)の機体について、国への登録を行わずに飛行させた場合に適用されます。
- 法的根拠:航空法第157条の7第1項第1号
- 実務上の注意点:事業で使用する機体は必ず登録を行い、登録記号を機体に表示してください。複数機体を保有する場合、管理台帳の整備をお勧めいたします。
(3)1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
飲酒・薬物影響下での飛行(公共の場所)
アルコールや薬物の影響により正常な飛行ができないおそれがある状態で、道路、公園、広場その他の公共の場所の上空において飛行させた場合に適用されます。
- 法的根拠:航空法第157条の8
- 実務上の注意点:場所を問わず飲酒操縦自体が禁止されておりますが、特に公共の場所での飛行については刑事罰が規定されております。社内規程などによって、管理を徹底することが重要です。
罰金刑
事業でドローンを活用する場合、多くのケースが「特定飛行」に該当します。以下の違反には十分ご注意ください。
(1)50万円以下の罰金
①飛行禁止空域での無許可飛行
以下の空域において、国土交通大臣の許可なく(または技能証明・機体認証等の法的要件を満たさずに)飛行させた場合が該当します。
対象空域
- 空港等の周辺
- 航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれがある空域(緊急用務空域等)
- 地表・水面から150m以上の高さ
- 人口集中地区(DID)の上空
- 法的根拠:航空法第157条の9第9号・第10号
- 実務上の注意点:飛行予定地がDID地区に該当するかは、国土地理院の地図などで事前確認が必要です。「会社の敷地内だから問題ない」という認識は誤りですのでご注意ください。
②禁止されている飛行方法の無承認飛行
以下の方法で承認(または技能証明・機体認証等による例外適用)を得ずに飛行させた場合の違反です。
対象となる飛行方法
- 夜間飛行
- 目視外飛行
- 人や物件から30m未満での飛行
- イベント(催し場所)上空での飛行
- 危険物の輸送
- 物件の投下
- 法的根拠:航空法第157条の9第15号~17号
- 実務上の注意点:点検業務などで構造物に接近する場合など事業活動では該当しやすい項目です。必ず事前に承認を取得してください。
③安全確保・機体認証に関する違反
- 登録記号の表示義務違反
- リモートID機能の搭載義務違反
- 立入管理措置(第三者の立ち入りを制限する措置)の不履行
- 法的根拠:航空法第157条の9第1号、第19号
- 実務上の注意点:リモートIDは原則として外付け・内蔵を問わず搭載が必要です。立入管理措置については、補助者の配置や看板設置などが求められます。
(2)30万円以下の罰金
日常的な運用における手続きも、法令上の義務として明確に定められております。
①飛行計画の通報を怠った
特定飛行を行う際には、事前にDIPS(ドローン情報基盤システム)を通じて飛行計画を通報する義務があります。
- 法的根拠:航空法第157条の10第1項第10号
- 実務上の注意点:包括申請で許可・承認を取得している場合でも、個々のフライトごとに飛行計画の通報が必要です。
②事故の報告を怠った
事故発生時に国土交通大臣への報告を怠った場合、または虚偽の報告をした場合に適用されます。
- 法的根拠:航空法第157条の10第2項
(3)10万円以下の罰金
飛行日誌の記録・技能証明の携帯義務の違反
現場での運用において、以下の義務を怠った場合に適用されます。
①飛行日誌の不備
特定飛行を行う際、飛行日誌を備え付けない、または必要事項を記載しない(虚偽記載を含む)場合に適用されます。
- 法的根拠:航空法第157条の11第2号・3号
- 実務上の注意点:業務記録として飛行日誌を適切に管理することは、安全管理体制の証明にもなります。
②技能証明書の不携帯
一等・二等無人航空機操縦士の資格を利用して特定飛行を行う際、技能証明書を携帯していなかった場合に適用されます。
- 法的根拠:航空法第157条の11第1号
行政上の届出義務違反(過料)
刑事罰ではありませんが、以下の場合には過料(金銭的制裁)が科されます。
- 登録事項の変更届出漏れ(事業所移転に伴う住所変更等)
- 登録抹消申請の漏れ(機体の廃棄・紛失時等)
- 罰則:30万円以下の過料
- 法的根拠:航空法第161条
事業者として求められるコンプライアンス体制
ドローンを事業で活用する際には、法令遵守はもちろんのこと、組織としての体系的なコンプライアンス体制の構築が不可欠です。
万が一の事故や法令違反が発生した場合、事業継続に深刻な影響を及ぼすだけでなく、社会的な信用を失墜させるリスクも抱えています。
注意するポイント
あらためて注意するポイントをまとめておきます。
機体登録とリモートID搭載
100g以上のドローンには機体登録が義務化されており、リモートIDの搭載も必須要件となっています。
これは単なる形式的な手続きではなく、空域の安全管理を実現するための重要な仕組みです。
期限切れも法令違反となりますので、機体管理台帳を整備するなどして、更新時期を確実に把握できる体制を構築しましょう。
DIPSでの許可申請と飛行計画通報
飛行許可・承認の取得は、人口集中地区や目視外飛行などの特定飛行を行う際の必須手続きです。
さらに、許可を得た後も個々の飛行前には飛行計画の通報が求められます。
現場の操縦者任せにせず、申請から通報、実施、報告までの一連のプロセスを標準化し、社内フローを整備することで、手続き漏れを防ぐことができます。
飛行日誌の正確な記録
特定飛行を行う場合は、飛行日誌の記載が義務付けられています。
飛行日誌は法令遵守のために行うだけでなく、万が一の事故発生時における原因究明や、安全管理や事故防止の取り組みに役立てることができます。
また継続的な記録の蓄積は、組織としての安全意識の高さを対外的に示す証拠ともなります。
デジタルツールを活用し、記録の負担を軽減しながら正確性を担保する工夫も有効でしょう。
社内規程の整備
飲酒管理規程や事故対応マニュアルなど、航空法で定められた基準を社内ルールとして明文化することも大切です。
特に飲酒については、アルコールの影響がある状態での飛行が厳格に禁じられています。
これらを社内規程として明確化し、全従業員に周知徹底することで、組織全体のコンプライアンス意識を高めることができます。
また事故発生時の報告ルートや初動対応、関係機関への通報手順なども事前に定めておくことで、緊急時の混乱を最小限に抑えられます。
操縦者の教育・訓練
技術的なスキル向上だけでなく、定期的なコンプライアンス研修の実施も重要になってきます。
法令は随時改正されますし、新たなガイドラインや運用ルールも追加されていきます。
年に一度以上の頻度で、最新の法規制や社内規程の確認、事故事例の共有、リスクマネジメントに関する研修を実施することで、組織全体のコンプライアンスレベルを維持向上させることができます。
外部講師を招いた専門的な研修や、国家資格である無人航空機操縦者技能証明の取得推奨なども、事業者としての信頼性向上につながるでしょう。
これらの取り組みは、短期的にはコストや手間がかかるように感じられるかもしれません。
しかし長期的な視点で見れば、事故リスクの低減、社会的信用の獲得、そして持続可能な事業運営の基盤となる重要な投資です。
ドローン事業の健全な発展のためにも、今日から着実にコンプライアンス体制の構築に取り組んでいきましょう。
専門家の活用
航空法の規制は複雑かつ頻繁に改正されます。不明な点がある場合は、ドローン業務に詳しい行政書士や、国土交通省認定の講習団体等にご相談されることをお勧めいたします。
おわりに
ドローンは事業の効率化や新たなサービス創出に大きく貢献する技術ですが、その活用には適切な法令遵守が前提となります。
本ガイドが、貴社のドローン事業における安全かつコンプライアンスに適った運用の一助となれば幸いです。
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