ドローンを業務に導入したいすべての方へ
建設現場の点検、配送業務、施設の警備、PR動画の撮影―ドローンの可能性に、多くの中小企業が注目しています。高所作業や空撮をこれまでより低コストで、しかも安全に実現できる。そんな魅力的なツールです。
ただ東京をはじめとする都市部での飛行となると、話は単純ではありません。
この記事では、都市部でドローンを業務利用するために知っておくべきルールと、実際に飛ばすための具体的な手順を解説します。
国土地理院の地図やDIPS 2.0といったツールを使った飛行エリアの確認方法、許可申請の進め方など実務的な観点からお伝えしていきます。
2025年以降に予定されている規制強化の動きも視野に入れながら、持続可能なドローン活用の道筋を一緒に考えていきましょう。
無許可で飛ばせる場所はほぼない?
まず押さえておきたいのは、都心でのドローン飛行において「無許可で飛ばせる場所はほぼない」という点です。
都心部では航空法に基づく人口集中地区(DID)での飛行制限をはじめ重要施設周辺を対象とした小型無人機等飛行禁止法、さらには東京都の条例による公園での飛行制限など、複数の規制が重なりあっています。
規制は3つの層に分かれている
ドローンの規制には3つのレイヤーがあります。
①航空法による規制
この法律は、航空機の安全な運航を確保すること、そして地上にいる人々や建物を危険から守ることを目的として定められています。
人口が密集したエリア(DID=人口集中地区)では航空法に基づく国土交通省の許可が必要です。
②小型無人機等飛行禁止法による規制
この法律は国の重要施設や原子力関連施設の周辺を、テロなどから守ることが目的です。
仮に航空法の許可をとっていても、この法律で定められた手続き(施設管理者の同意と事前通報)を踏まずに飛行させれば違法行為となります。
③条例や民法による規制
自治体や土地の所有者の権利を公園の管理条例や私有地での権利に基づく制限がこれに当たります。
たとえ上記2つの法律をクリアしていても、公園の管理者が「ここでは飛ばせません」と言えば、それに従わなければなりません。
東京都立公園での全面禁止などが典型例です。
この3層構造を理解せずに飛行計画を立ててしまうと、「航空法の許可は取れたのに、実際には飛ばせなかった」という事態になりかねません。
「トイドローンなら大丈夫」は誤解
それからもう一つ注意が必要なのは、機体の重量に関する誤解です。
航空法に定められている特定飛行は100g以上の機体を対象としているため、100g未満の機体については許可が不要で飛行させることができます。
しかしあくまで航空法にもとづく許可が不要というだけであり、小型無人機等飛行禁止法には重量の規定がありません。
つまり100g未満の小さなドローンであっても、同意と通報なしに重要施設の周辺で飛ばせば小型無人機等飛行禁止法違反となります。
このように、ドローンを飛ばす際には航空法・小型無人機等飛行禁止法・条例等自治体のルールという3つの規制を同時に満たす必要があります。
飛行計画の段階で必ず3つのレイヤーをすべて確認しましょう。
ではそれぞれの規制について、もう少し詳しく見ていきましょう。
航空法とDID
ビジネスでドローンを活用するなら、まず理解すべきなのが航空法です。
航空法に規定されているドローンの飛行禁止エリアのひとつが「人口集中地区(DID)」です。
人口集中地区(DID)とは何か
DID(Densely Inhabited District)は、国勢調査のデータをもとに設定される、人口密度の高いエリアのことです。
具体的には1平方キロメートルあたり4,000人以上の人口密度を持つ区域が隣接し、その合計人口が5,000人以上になる地域が指定されます。
ポイントは「実際にその瞬間、そこに人がいるかどうか」ではなく、「統計上、人が密集している地域かどうか」で決まるという点です。
たとえば早朝の河川敷に誰もいなくても、その場所が地図上でDIDに指定されていれば、航空法の規制対象になります。
東京都内は広範囲がDIDに該当する
23区のほぼ全域、そして多摩地域の市街地も広くDIDに含まれています。
つまり、都心部で自社ビルの屋根を点検したり、工場敷地内で空撮したりする場合、国土交通大臣の許可が必要なケースがほとんどということになります。
「自分の会社の敷地だから自由に飛ばせる」という考えは大変危険です。
たとえ私有地の上空であっても、敷地がDIDの範囲にあるのであれば、許可が必要になります。
「特定飛行」に該当すると許可が必要になる
DID上空での飛行は、航空法で定める「特定飛行」の一つで、他にも特定飛行に定められているものがあります。
特定飛行をする場合は、DIDでの飛行と同様に許可が必要になります。
場所に関する規制と方法に関する規制があり、それぞれ許可や承認が求められます。
例えば都内でドローンを使用して業務を行う場合、DIDだけでなく「人・物件から30m未満の飛行」にも該当するケースがほとんどです。
そのため実務上は、「DID」と「30m未満」の許可をセットで取得することがほとんとです。
どんなものが特定飛行にあたるのかは別の記事でくわしく解説していますので、よろしければそちらもご覧ください。
包括申請と個別申請
航空法の許可申請には、大きく分けて「包括申請」と「個別申請」の2種類があります。 継続的にビジネスで使うなら、多くの場合「包括申請」をすることになります。
包括申請とは「同一の申請者が一定期間内に反復して飛行を行う場合又は異なる複数の場所で飛行を行う場合の申請」を一度にできるというものです。 具体的には次の通りです。
- 最長で一年間飛行OK
- 日本全国どこでも飛行OK
- 何度でも飛行OK
- 一度の申請でOK
ただし、包括申請ではカバーできない飛行もあります。イベント上空や空港周辺など、リスクの高い飛行は包括申請ではなく個別申請が必要とされています。
個別申請は、日時と飛行経路を特定して申請する方式です。そのため飛行許可は特定の日時についてのみとなり、ふたたび飛行させる場合には改めて申請が必要になります。天候不良で延期になった場合などの柔軟性に欠けますので、可能であれば包括申請をおすすめします。しかし先ほど申し上げたとおり、特定飛行の中でも包括申請が認められていないものに関しては、個別申請をしなければなりません。
DIPS 2.0でオンライン手続きを完結
ドローンの飛行許可申請は、国土交通省が運営する「ドローン情報基盤システム2.0(DIPS 2.0)」を使ってすべてオンラインで完結できます。
まず100g以上の機体については機体登録を行い、固有の登録記号を取得する必要があります。 技能証明を取得している場合は、DIPS 2.0と連携させることで審査の一部を省略できるメリットもあります。
許可を取得した後も実際に飛ばす前に「いつ、どこで飛ばすか」という飛行計画をDIPS上で通報することが義務づけられています。 許可申請だけではなく、飛行前の通報まで含めた一連の手続きをDIPSで行うことができます。
小型無人機等飛行禁止法
この法律はテロなどの脅威から国の重要機能を守ることを目的としています。 特に東京都心部には重要施設が集中しているため、この法律を理解しておく必要があるでしょう。
小型無人機等飛行禁止法はその対象施設の敷地そのものと、その周囲おおむね300mを飛行禁止区域に指定しています。 施設所有者や管理者の同意を得ているなどの例外を除いて、このエリアでの飛行が禁止されています。
違反すれば、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。
2025年以降の法改正の動き―禁止区域が1,000mへ拡大か
警察庁の有識者検討会で、この禁止区域を「おおむね300m」から「おおむね1,000m」へ大幅に拡大する提言が出ています。 背景にあるのは、ドローンの性能向上です。1km離れた地点からでも数十秒で到達できるようになったため、より広範囲での規制が必要だとされています。
もしこの改正が施行されれば、東京都心部ではドローンは事実上ほとんど飛行できなくなるということになるでしょう。事業計画を立てる際は、この将来的な(と言うよりごくごく近い将来の)規制強化も視野に入れておく必要があるでしょう。
東京都独自の規制―「場所」をめぐる制約
国の法律をクリアしても、東京都には独自の厳しいルールが存在します。「航空法の許可があるから大丈夫」と考えて都立公園で飛ばそうとすれば、条例違反で処罰される可能性があります。
都立公園は基本的に飛ばせない
東京都建設局が管理する81の都立公園・庭園(代々木公園、日比谷公園、葛西臨海公園など)では、ドローンの飛行が全面的に禁止されています。
明確にドローンの禁止が定められているわけではありませんが、東京都立公園条例の16条で禁止されている「公園の管理に支障がある行為」に該当するとされています。 禁止の対象となるのは、重量に関わらずすべての無人航空機です。小型無人機等飛行禁止法と同様に、100g未満の小型トイドローンであっても例外なく禁止対象となります。重さや大きさで判断されるわけではない点に注意が必要です。
残念ながら、一般の利用者が許可を得る手段は事実上ありません。許可が下りるのは、防災訓練や行政による調査といった公共性の高い目的に限られており、その場合も極めて限定的な運用となっています。
区立公園も同様です。千代田区、港区、八王子市、多摩市など多くの自治体が条例で飛行を禁止しています。周りに人や物があるかどうかで飛行可否を判断するのではなく、個別にその場所のルールを確認するようにしましょう。
河川敷での飛行
河川敷は広大なオープンスペースで、練習場所として有望に思えますが、ここにも管理者のルールがあります。河川法上、ドローンの飛行そのものが直ちに禁止されているわけではありませんが、危険行為や迷惑行為は制限されます。
- 荒川(下流) 荒川下流河川事務所は、「無人航空機は飛ばさない」ことを原則としています。ただし、占用地(グラウンドなど)の管理者の許可がある場合や、特定の安全要件を満たした上での届け出により可能になるケースもありますが、ハードルは高めです。
- 多摩川 京浜河川事務所が管轄する下流エリアでは、人口密集地に近いこともあり、原則として飛行自粛・禁止の指導が行われることが多くなっています。一方、上流の東京都管理区間では、場所によっては利用可能なケースもありますが、生態系保持空間など立ち入り禁止区域も多く、事前の確認が不可欠です。
プライバシーと肖像権―近隣トラブルのリスク
都市部での飛行で避けて通れないのが、近隣住民とのトラブルです。
- 民法上の土地所有権 土地の所有権は「その利益の存する限度」で上空にも及びます(民法207条)。他人の家の上空数メートルを勝手に飛行させることは、所有権の侵害となる可能性があります。
- 迷惑防止条例 東京都の迷惑防止条例では、正当な理由なく特定の人物を執拗に追尾したり、住居をのぞき込んだりする行為が規制されています。ドローンによる撮影がこれに該当すると判断されれば、通報を受けた警察が介入することになります。
法律上の問題がなくても、近隣住民からの苦情や通報でトラブルに発展するケースは少なくありません。都市部でドローンを飛ばす際は、周囲への配慮を怠らないようにしましょう。
飛行可能エリアの調べ方―実践的なリサーチ手順
ここまで見てきたように、都内での飛行には飛行禁止エリアに十分に注意しなくてはなりません。ここでは、ビジネス担当者が実際に行うべき具体的な手順を解説します。
ステップ1:DIPS 2.0で確認する
国土交通省のシステム「DIPS 2.0」にある「飛行計画の通報・確認」機能の地図を利用します。
- DIDの確認 地図上で赤く塗られたエリアがDIDです。ここでの飛行には航空法の許可が必要になります。
- 空港周辺の確認 緑色で表示されるエリア(進入表面など)。ここでの飛行は原則不可です。
- 禁止法エリアの確認 地図のレイヤー切り替えで「小型無人機等飛行禁止法」を選択します。黄色・赤色の枠が表示されている場所が対象施設周辺です。ここに含まれている場合、前述の「同意・通報」がない限り飛行はできません。
ステップ2:国土地理院地図で確認する
DIPSの地図は大まかな確認には便利ですが、境界線ギリギリの判断には「国土地理院地図」が適しています。「人口集中地区」のレイヤーを重ねることで、正確な境界を確認できます。
ステップ3:警察庁・都道府県警のサイトで確認する
禁止法エリアについては、各省庁や自治体のホームページなどで「対象施設周辺地域図」を確認してください。 ここには「◯◯区永田町1丁目全域」「◯◯町◯番地」といった具体的な地番まで指定されています。ビジネスとしてリスク管理を行うなら、この一次情報を参照し、飛行予定地がリストに含まれていないかを目視確認することが必須です。
ステップ4:現地管理者に確認する
地図上でクリアであっても、そこが公園なら公園管理事務所へ、河川敷なら河川事務所へ電話確認を行います。「業務として撮影を行いたいが、ドローン使用は可能か」を率直に尋ねるとよいでしょう。 地図だけで判断せず、管理者に直接確認するなど十分に注意しましょう。
コンプライアンスとリスク管理体制
ドローン運用における法令違反は、書類送検や逮捕といった刑事罰に直結するだけでなく、企業の社会的信用を失墜させる重大なリスクです。
社内管理体制を整える
- 飛行日誌(フライトログ)の義務化 いつ、誰が、どこで、どの機体を飛ばしたかを記録し、常に開示できるようにしておきます。
- 機体認証と定期点検 特定飛行を行う機体は、メーカーの点検基準に従って整備し、記録を残します。
- 保険への加入 対人・対物賠償責任保険への加入は必須です。各社業務利用向けのプランもあります。
違反事例から学ぶ
- 事例1:動画投稿による発覚 SNSやYouTubeにアップロードした動画が証拠となり、後日書類送検された事例もあります。飛行高度や場所が特定され、無許可飛行が露呈するパターンです。業務での撮影映像を公開する際は、必要な許可の有無や管理者の同意など改めて確認することをフローに組み込むことも大切です。
- 事例2:ずさんな管理体制 たとえ休日であっても企業名義の機体が社員によって無断で持ち出され、私的に利用されていたような場合、使用者責任は問われなくとも企業側の管理体制そのものが問われる可能性があります。 台帳での機体管理など、しかるべき体制の構築も必ず行うべきです。
都内でのドローンビジネスは「事前の準備」で決まる
小型無人機等飛行禁止法のエリアや都立公園など、物理的に飛行が不可能なエリアは存在します。しかし、私有地内の屋内点検、適切な許可を取得した上での空撮、あるいは100g未満機体を活用した狭小地作業など、東京都心でもドローンの活用の余地は十分にあるといえます。
重要なのは、地図アプリを眺めて「大丈夫だろう」と判断するのではなく、DIPS 2.0、警察庁地図、施設管理者への確認を業務フローに組み込むことです。
ドローンは、正しく使えば業務効率を大きく改善できるツールです。ただし、その前提となるのは法令遵守と丁寧な準備です。2025年以降の規制強化を見据え、今から高いコンプライアンス意識を持った運用体制を構築することが、ドローンビジネスで持続的に成果を上げるための唯一の道です。

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